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そこに、君がいたとして
日記を徒然。妄想駄文も徒然。 注!女性向けネタバレあり。
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「疲れた!」
「何言ってんですか。まだ始めたばかりでしょう」
「書類は全部目を通したぞ」
「通しただけで仕事は終わりません。あなたが仕事をしてくれないと私の仕事が終わらないのですから早くしてください」
「さ、休憩しよう」
「だから…!」

何度言わせるんですか!そう言い終わる前にさっさと部屋から出て行った同僚を恨めしく思う。
彼はいつもこうして休憩だと託けて恋人に会いに行くのだ。
別に彼が誰かに会っているところを見たことも、言われたこともなかったのだが、恋人に会っているのは知っていた。
わかってしまったのだ。彼を見ていたから。
社内恋愛なのだから風のうわさで聞こえてきそうなものだが、耳に入ったことはない。
聞こえてくるのは彼が成功させたプロジェクトの評価ばかりだった。
自分もその仲間だったから聞こえてくる賞賛の声には嬉しく思う。
今回もまた大きなプロジェクトを任され二人で仕事場に篭っている日々が続いていた。
だから彼がどうやって今まで誰にもバレずに逢引をしていたのかがわかってしまった。

45、46…58,59、1分。ドアが開く。

「ただい」
「3分で終わらせなさい」
「…すいませんでした。ごめんなさい。無理です」

ギロっと睨みつけてやればそそくさと仕事をしだした。
彼の休憩は必ず1分ぴったりだった。
それはあまりにも短い休憩という逢引。
それ故ばれない恋人関係。
昔、短い休憩ですねと聞いたことがあった。
彼は人差し指を口にあててただ笑った。
私が気づいているということを知っていたのだ、彼は。
彼を好きでない人が見れば気づくことはない彼の行動。
彼は知っているのだ。
私が彼を好きだということを。
なんて残酷な人だろう。
それでも私たちの関係はただの良い仕事仲間のままで。

「休憩しよう」
「また…仕事が進まないでしょう」
「もう3時間もしているじゃないか」
「何十時間でもやりますよ。ほら早く」

別に彼女の会いに行ってほしくなくて言っているわけではない。
性格上仕事をやめる気にならないのだ。
いや、本当は彼といれる仕事をやめたくないのかもしれない。
何度も、もうやめてしまおうとしても、距離を作るために敬語を使っていても、そばにいたいと切望している自分がいる。

「いや、休むぞ」

そういって扉へと向かう。
一度言ったら絶対彼は彼女のところへ向かう。
結局そういうことだ。
なら早く彼女のところにいけばいい。

「君はブラックでよかったか?」

え、と一瞬理解できなかったが、彼の顔を見てコクリと頷く。
すぐ外にある自販機へと彼が部屋を出て行った。
顔が熱い。
いつも彼女に使う1分を、今私が、貰った。
どうして、私が好きだと知っていてそんな不意打ち。
突き放せばいいのに。優しくされても私には空虚しか残らないのだから。

「はい」
「…ありがとうございます」
「1分では飲みきれないだろうな。けど君は根を詰めすぎなんだからたまには休憩しろ」

あなたの優しさが哀しいほど痛い。
近すぎない遠すぎない。そんな距離を保っていたのに。
あなたからその線を越えないで。

「あなたは休憩が多すぎるんですよ」
「悪いが、あれ以上は減らせられないな」
「なら仕事のスピードを速めてください。亀では困ります」
「ひどいな。本当に俺のことが好きなのか?」
「好きですけど、それがなにか?」
「ん、すまん。君を好きになることはない」
「傷つきました」
「じゃあ、愛してるよ君だけを」
「死んでください」

あぁ、口を開けば頭痛が増す。
なんで私はこんな身勝手で憎たらしい人を好きになったのだろうか。
あなたを愛した意味など知らないし、あなたのあの人を想う目の、それ以上の愛も知らない。
どうにもならない愛情であることが絶望だ。
こんな想いいっそのこと握りつぶしてしまえればいい。
あぁ、人魚姫のように泡になれたらいい。
私などいっそのことこの残酷な王子を殺した罪で灰になればいいのだ。
恋ではなく、愛ではなく、泡になりきれずに灰になればいい。

でも今は、この1分を味わっていよう。
極上の、だけどだからこそ最悪に痛いこの時間を。
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HN:
如月汰姫
性別:
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職業:
女子短大生
自己紹介:
夢っ子腐女子です。
オリジbl大好き。
WJも好きだけど
最近買ってないです。
三国志マニア。
阪神ファン。
ただいま保育科1年。